【チャイコフスキーとシベリウスが生まれた国  〜ロシアとフィンランドの基礎知識〜】  第5回

 

このような、宣伝をしないような性質が、その長い歴史において教会内で用いられてきた美術や音楽が、外部に伝わり難いということにつながったと思われる。

 

正教ではイコン(ロシア語ではイコナ)と呼ばれる聖画像があり、祈りの場においては欠かせないものだとのことである。

教会によってはおびただしい数のイコンが壁いっぱいに祭られている。

近年では写真などで見ることが出来、芸術性が高いものも相当数あると思われるが、知る人ぞ知るものであり、イタリアの画家のように世界中の一般人にその存在が知られることもなく、そもそも作品そのものもあまり外部に知らせようとはしていない。

 

ロシア正教 イコン

 

高井寿雄氏はイコンについて次のように述べている。


『イコンが「イコン芸術」としてその美術的価値を云々されるのは、全く宗教観とは別個のものであって、一般芸術作品としての価値基準に適合したものが、たまたま宗教的世界以外の場で「芸術的」と評価されるだけのことである。
元来、イコンは、展示物でも装飾物でもないのだから、西欧の聖画の彩った、美的要素のごときものは、はじめから考慮されることが少ない。あくまで信仰の対象であり、その対象物のイメージが表われた絵であれば良いわけで、必ずしも美術的にすぐれているものをよしとするわけではないのである。』

 

次記事第6回 東方正教の音楽 〜楽器使用の禁止、声楽だけ〜

 

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【チャイコフスキーとシベリウスが生まれた国  〜ロシアとフィンランドの基礎知識〜】 

はじめに

第1回 隣近所のロシアとフィンランド 〜音楽の中心地ヨーロッパは遠く〜

第2回 ロシアの出発点 〜キリスト教を取り入れて〜

第3回 ヨーロッパと分かれていくロシア

第4回 宗教芸術の違い 〜芸術として発信するか否か〜

第5回 東方正教の宗教芸術 〜美術的価値尺度で発信をしない〜

第6回 東方正教の音楽 〜楽器使用の禁止、声楽だけ〜

第7回 ロシアの鐘 〜日本で一般的にイメージする「教会の鐘」と異なるトレズヴォン〜

第8回 西欧音楽の伝来 〜グリンカを経てチャイコフスキーへ〜

第9回 フィンランドの出発点 〜スウェーデン支配によるキリスト教化〜

第10回 フィンランドを巡る戦い 〜シベリウスの時代に至るまで〜

第11回:最終回 フィンランド人の民族意識 〜シベリウスも題材にした 叙事詩「カレワラ」〜